shi−ki
〜薄紅〜

 差し出されたお茶には誰も手を付けずに、ただ黙って目の前にいるおばあさんを見つめている。
 広い庭を通って玄関をくぐると、すぐ目の前の和室に通された。ここで待つように言われたあたし達は、一言も会話を交わさずに、ここに座っているのだ。
「響様は、ただ今禊をなさっておられます。もう少々お待ちくださいませ」
 悪びれない様子でそう言い残すと、おばあさんは部屋を出ていった。
 なんだ。あのおばあさんが[有名な霊能力者]じゃなかったんだ。なんだか、いかにもって感じだったんだけど。

「――あいりに…会えるのかしら?」
 お母さんが、ぽつりと呟いた。
 お父さんは、そんなお母さんの肩を抱いて「きっと、話ができるさ」とか言ってる。
 2人共、ばかみたい。
 お姉ちゃんと 、話せるわけなんてない。どうせ、その「霊能力者」がお姉ちゃんの振りをして、適当なことを言うだけなんだ。

 あたしは、お互いに慰め合ってる二人を見ていられなくなって、外を眺めてた。

 しばらくして、部屋を仕切る襖が開いて、中から人影が現れた。


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