shi−ki
〜薄紅〜

 日曜日。晴れ。

 頭に来ちゃうくらいに、空は明るい。桜まで咲いちゃってる。
 あたし、桜って嫌い。すぐに散っちゃうから。綺麗なままで終わる――お姉ちゃんみたいに――。

「ここか....」
 車を止めたお父さんが、運転席で呟いた。あたしは、顔を上げて窓の外を見る。
 でっかい家――

 あたし達は、車を降りて門へと向かった。
 古い、木で出来た家。どっしりと落ち着いた雰囲気があって、門の前にいるだけなのに、妙に緊張する。
 何だか居心地の悪いあたしは、辺りをきょろきょろと見まわした。
 ふと、その目が表札の上に止まる。
「九条」
 くじょう――って読むのかな。
 その、高価そうな、分厚い表札を眺めていると、
ぎ、ぎぎ....
と、軋む音を響かせて、門が開いた。

「ようこそいらっしゃいました。――板谷様でございますね。お話は伺っております。..では、どうぞ中へ」
 中から現れた小柄なおばあさんに、中に入るよう促される。

 あたし達は、何一つ言葉を交わす事なく、木造の大きな門をくぐった。


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