shi−ki
〜薄紅〜
17
一度家に戻って、でもすぐに、あたしは一人暮らしをしているアパートに帰って来てしまった。
『もう一度、九条さんの所に行こう』そうお父さんは言ったけど、あたしはそんなの、嫌だ。
ベッドの上に倒れ込んで、目を閉じる。今日見たばかりの、お姉ちゃんの姿が浮かんできて……
「お姉ちゃんなんかじゃないよ……」
呟いて、自分に言い聞かせる。もう、何度目だろ。
首を強めに振って、お姉ちゃんの幻影を払おうとした。なかなか消えてくれない影に、段々いらついてくる。
(違うったら!)
イライラが止まらなくって、枕に顔を埋めた。と、
プルルル……
ほとんど同時に、電話のベルが鳴りだした。
家から、かなぁ…。
大きく息を吐き出して、受話器を取った。家からだったら、すぐに切ろう。そんな事を考えてたんだけど…。
「…もしもし、板谷です」
[─────]
相手からは、何の答えも返ってこない。
「もしもし?」
重ねて声を掛けても、何も言わない。
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