shi−ki
〜薄紅〜
16

 お姉ちゃんが、あんなに優しい目であたしを見るはずなんてない。
 ──あたしは、お姉ちゃんを見殺しにしたんだから。

 あの事件の後からずっと、あたし達家族の間には、拭い切れない重い空気が漂ってた。
 表向きは立ち直ったように振る舞ってたけど、あれ以来お姉ちゃんの名前すら、誰も口にしようとしない。
 あの事件は、あたし達の中ではずっと、無かった事になっていたんだ。

 お姉ちゃんは生きてる。ずっと、そう思っていたかった───。

 気付くと、電車が徐々にスピードを落としていた。
 次の駅で降りれば、家まで歩いて7、8分で着く。

(降りなきゃ…)

 降りたくなんかない、けど。

 深くため息を吐きながら、あたしは電車を降りた。ホームの中を、ゆっくりと出口へ向かう。

 …足が重くて、思うように進めなかった。


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