shi−ki
〜薄紅〜
15

 目の前を、沢山の人達が通り過ぎてく。
 日曜日のせいか、お昼でも地下鉄の構内は混雑してた。

 あのままふらふらと歩き回って……気が付いたら、目の前に地下鉄の入り口があって。……行く宛てなんて無いまま、駅の中まで来た。

(どうしよう……)

 ベンチに腰掛けて、考える。
 家、帰りたくない。でも、帰らなきゃ。
 あたしが、両親に心配かけるわけにはいかない。それは、分かってるけど…。

(お姉ちゃん──)

 ぼんやりと前を見ながら、さっきの事を考えてみる。

 目の前に現れたのは、間違いなくお姉ちゃんの姿だった。それに……。

(催眠術じゃ…ないよね…)

 あの時、九条さんは催眠術なんてかけてたんだろうか。だけど、それ以外にどう説明がつくんだろう。

「分かんないよ…そんなの……」

 分からない。分からないけど、あのお姉ちゃんは絶対に偽物だ。

 だって───

 だって、お姉ちゃんが、あたしを許してくれるわけなんて……ない。


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