"ADDICTED TO YOU"

何時もと何ら変わりのない幸せな朝がまたやって来る…。僕は毎朝が楽しみでたまらない。愛する人が毎日起こしに来てくれるから。

「幸平、起きてよ!!もう遅刻するってば!!」

「…んー…お早う。良い朝だね…。」

「何が良い朝だねよ!!早く着替えて顔洗ってきなさいよ!!」

「もー、わかってるよ。母さんみたいなこと言わないでよ。」

「幸平がチンタラしてるからじゃない。早くしてよ。先行っちゃうよ?」

「ハイハイ…」



幸せだった…すごく幸せだった。

いつまでもこんな風に幸せな日が続くんだと信じていた。

だけどあの日…



ゆうきは僕の前から突然居なくなった。



あの日のことを思い出すとまた深い悲しみに陥ってしまう。絶望から立ち直れなくなる。自分は生きているのに、死んでいるような気になる。

───…

あれは僕等が高校3年の8月31日のことだった。
その日は夏休み最後で、ゆうきは友達の家で宿題を一気に片付けると言って朝から友達の家へ行っていた。

僕はと言うと、大学進学を目指していた為、夏休みの始めから予備校に通っていて、その日もまた予備校で授業を受けていた。

蝉が五月蝿く鳴いていた。チラッと窓の外を見てみると、電信柱に真っ黒な烏が何羽もとまっていた。

どことなく不吉さを覚えて身震いした。

授業が全て終わって鞄に入れていた携帯に目をやると、着信が何件も入っていた。一体何事だろうと思って履歴を見てみると、うちの母親とゆうきの自宅からそれぞれの着信だった。

嫌な予感がした。

即座に僕はゆうきの自宅にかけ直した。

僕の鼓動は死んでしまうのではないかという程にどんどん早くなっていった。

「…芹沢です…」

「あ、幸平だけど。おじさん、どうかした?」

「幸…っ…」

「どうしたの?泣いてる…?」

「ゆうきが…」

「え?ゆうきがどうしたの?」

異様な空気が立ち込めた。

「急いで西病院に…」

そして電話が途切れた。

「病院…?」

妙な胸騒ぎがした。
何か、大きな物が欠けてしまった様な気がした。

僕は言われた通りに西病院へ行った。

病院に入ると看護婦さんがいたので、ゆうきの居場所を尋ねてみた。

すると看護婦さんは、ついてきて下さいと言って僕を案内してくれた。

何だか薄暗い場所へと連れていかれた。

「此処です。」

連れてこられた部屋の扉を見てみるとそこには"霊安室"の文字が…。

僕は一気に青ざめた。
何が起こっているのかわからなかった。

扉を開くとそこにはゆうきの母親と家の両親が、白い布を被せられた遺体と思しき物体に寄り添って泣き崩れている姿が見えた。それはもうドラマや映画の様に、実際に起こっていることとは思えなかった。

「…な…に…?」

短い言葉を発することで精一杯だった。

「こうへ…い…く…っ…わぁぁぁあ!!」

ゆうきの母親が一際大きく泣き叫んだ。

「ゆうきが…ゆうきがぁ…!!」

狂ったように泣く彼女は、僕に言いたいことが沢山あるようだが鳴咽で話が続かない。

僕は白い布を剥がしてみた。

そこには青白い顔をした愛しき人が眠っていた。

「…ゆうき…?ゆうきぃ…何してんの…ねぇ…早く起きてよ…ねぇってば…明日も学校行くでしょ…?ねぇってばぁ…!!」

段々段々実感が湧いてきて、涙がとめどなく溢れて、自分を失った…

当たり前にあると信じていた明日はもう無くなってしまった。
ずっとずっと幸せなんだって思って未来は無くなってしまった。

どれだけ望んでも、もう…

色んなことを頭の中で考えていたら段々息が苦しくなってきて、前みたいに意識を失って倒れてしまった。

もう嫌だ…

倒れる寸前に強くそう思った。


―continue―
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