パステルグリーンの色彩で―6

「突然帰ってくるんだから。いったいなんの用なの?」
服装は和服であるが、中身が外見通りとは限らない。
「息子が夏休みに実家に帰ってきたらおかしいんか?」
「だってあなた去年は帰ってこなかったじゃない」
確かにその通り。この家での生活に嫌気がさして、大学入学と同時に一人暮らしを始めた。それは有紀にとって解放を意味していた。なんだかんだと理由をつけて、一年の去年は正月に帰っただけだ。大した距離ではなかいが、あまり敷居を跨ぎたくなかった。
「親父は?」
「仕事よ」
「そうか」
それを聞いて安堵する。家を出た最大の要因は父親にあったからだ。仕送りはありがたいが、存在はウザったい。
「昔のアルバムあるか?」
有紀は靴を脱ぎながら聞いた。
「そりゃあるわよ。なに、そんなことのために帰ってきたわけ?」
「そんなことって言わないでくれ。かなり深刻な問題なんだから」
「あら、そうなの?」
「いいから持ってきてくれよ」
「はいはい。じゃあ、居間で待ってなさい」
そう言って奥へと消えていった。


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