パステルグリーンの色彩で―3
蒸せかえるほどの緑の香りをかいでいた。
森林の中。
奥深く。
周りには樹木しか見えないほど奥深く。
天然の緑の絨毯は、有紀の体をやさしく包んでくれる。
頬にあたる草の先を時折こそばゆく感じるが、それも清々しく感じてしまう。
木漏れ日がところどころ差していて、それが眩しくならないほどに、森の中を明るくしてくれている。
たまに吹く風が、緑だけでなく、花の香りもどこからか運んでくる。
そう、有紀はこうして過ごすのが好きだった。
時間の経過を忘れさせてくれる。嫌なものも忘れさせてくれるこの場所が好きだった。
だった?
それはいつ!?
そこはどこ!?
なぜそこにいかなくなった!?
有紀が自問を始め出すと、それまでとは明らかに違う風が吹いた。有紀は驚きすぐさま立ち上がり、風の吹いた方をみる。
誰もいない。
だが、寒気だけは確かに感じる。
「誰かいるのか!?」
叫んでいるような、問掛けているような言葉を言うか言わないか、有紀は走り出した。
その場にいれば襲われるという確信から。
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