パステルグリーンの色彩で―11

その建物は木々にうもれるように建てられていた。佐織が言わなければ、有紀は気が付かなかったかもしれない。
「ゆきちゃんあれじゃないの?」
佐織が指差すので、そちらを見ると、淡いグリーンが背景にとけこむような色の建物があった。
しばらく前から対向車どころか後続の車もなかったので、ややスピードを落として見入っていた。
いつか見た光景
「よかったじゃん。道間違ってなかったってことだよ。いこいこ」なにか思い出せそうな感覚は、佐織によって遮られてしまった。けれど、遠くから見ても感じるところがあったのだから、近付けばもっとなにかあるかもしれない。
有紀は車のスピードを気持ち上げた。
近付いてくる建物に胸が高鳴るのを感じていた。
建物についてわかったことが一つ。道は建物のところで途切れていた。ここまでの道のりの数十キロは私道といってよいものだということだ。


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