傷跡―6

「どういうこと?そんなことなんで」
「親父の持ち物の中に俺の住所の書いた紙があった」
「そんなことで!」
「湾岸戦争の時に、親父は俺の上官だった。俺自身、小隊を率いていたんだが、俺の判断ミスで部下の何人かが死んだ。それが親父には失態でしかなく、経歴に傷をつけたことになった。それを最後に俺は軍をやめた。軍にいれば親父は上官でしかなく、俺は馬鹿な部下だ」
「そんなこと」
「そういうことがあったんだ。結局、親父は母さんをどうするつもりだったかはわからない。俺は二人分の葬儀を済ませて戻ってきたところだ」
エリンは立ち上がった。
「さてと、しばらくしたらまた顔見せると思うけどよろしくな。さすがに今日は口説く気になれねぇからな」
「あなたはこんな目にあったのになぜまだ続けるの?続けなくちゃいけないの?」
エリンは少し悩んで、いつもの陽気な笑顔で答えた。
「結局、俺も戦場でしか自分を見付けられなかったのかもな。もしくは、生活のための他の手段が思い当たらない」
エリンを見送った私は、珍しく酔うことにした。


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