傷跡―4
「しかたないじゃない。軍に入れば自然と時間も拘束されるし」
エリンは片手でそれを制した。
「違うんだ。俺が軍に入ったこと自体が許せなかったんだ。別れた理由が親父が軍人だったせいだから」
エリンはグラスを空にするとマティーニをおかわりした。
「母さんからはよく思われてなかったけど、親父は俺にとってあこがれそのものだった。だから、後を追った。それが母さんには許せなかったんだ。それから音信不通だった。あのファイルを見るまでね」
「そんな人がなんで軍治訓練なんか」
ビシッという音が聞こえた。見るとエリンの持つグラスにヒビが入っている。
エリンはマスターに謝罪とおかわりを頼んだ。
「親父のせいなんだ。親父が戦争にいかれちまったせいなんだ」
エリンは苦いものを吐き出すような苦悶の表情を浮かべた。
「同じ場所に身を置いて初めてわかった。軍で英雄だった親父は戦争から離れかれなかっただけなんだ」
「だとしても」
「それは行き過ぎてたんだ。戦争でもやりすぎて軍の刑務所に入っちまった。それでも英雄視する奴はいたけどな」
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