傷跡―3

エリンを見掛けたのは偶然だったと言っていい。
近くのスーパーへ買い物にいく途中だった。エリンはどこかものうげな様子でバーに入っていくところだった。私はエリンの様子が気になって、バーに入っていった。普段ならアルコールを口にしないのだが、この時はそんなこと考えることもなかった。
エリンをみつけるのは簡単だった。開店して間がなかったために客が少なかったせいだ。エリンはカウンターに座っていた。
やけになって酒を飲んでいるようではなく、しんみりと酒に酔っているようであったが、酒にまかせて何かから逃れようとしているようにしか見えなかった。
黙って横に座ると、エリンは一瞬驚いたようだったが、すぐに微笑みを浮かべた。
私がこの間のことをどう尋ねようか迷っていると、エリンの方から話し出した。
「こないだのあれ。俺の母親だったんだ」
「えっ、でも」
「ファミリーネームのことか?両親は離婚してる。俺は親父に引き取られたからな」
私は言葉に詰まったが、気にすることなくエリンは続けた。
「別れた後も頻繁にあってたけど、俺が軍に入ってからはそれもなくなった」


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