傷跡―11
オープンテラスのカフェは満席に近い状態だった。
わたしが先についたとしたら席をとれるかどうか不安になったが、ソーイチローの姿を確認して杞憂であったことを知った。
「ハーイ」
わたしの声にソーイチローは軽く手を上げることで答えた。
わたしはその手に包帯が巻かれていたことを見逃さなかった。
「いったいなにがあったの?」
わたしは追い払うような気持ちでウェイトレスにコーヒーを頼むと、のり出しそうな勢いでソーイチローに問掛けた。
「あぁ、これか」
ソーイチローは右手に巻かれた包帯に目をやった。
「俺はたいしたことなかったんだがな、クライアントが」
「どうしたの?」
「いま、集中治療室にいる。かなり危ないらしい」
ソーイチローは視線を落とした。
「あなたへの依頼はあくまでインストラクターだったはずよ」
「そういう依頼にしかしていなかったのだからそうだろう。クライアントにしてみても、ちょっとした手違いだった」
「手違い?」
「ああ、一日ズレてたんだと。襲われるはずの日が」
ソーイチローは何があったのか語りだした。ゆっくりと噛み締めるように。
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