傷跡―1
第一話
治安の問題からだろうか。アメリカでは戦闘のインストラクターが仕事として成立している。
彼等の経歴はそれぞれであるが、中には本職からもマスターと呼ばれるほどの人もいる。それほどの人がなぜ軍や警察などから離れたのか私は知らない。知ろうとしたこともない。だが、知りたくなくとも聞こえてきてしまうことはある。
私が仕事でエージェントに仕事を紹介しているせいろう。
そして、そんな時は涙してしまう。そんなことが多い。辛すぎる過去を背負っている人のことばかりがなぜか聞こえてくる。
でも、それはなにも過去に置き去りにされたことだけではなくて、今も続いていることさえある。
「やぁ、ジニー。なんかいい仕事はいってないかな」
エリンは陽気に話しかけてきた。
三十そこそこなのだろうが、妻帯者ではなく、過去にもそういったことはなかったらしい。本人の言葉を信じればだが。
幾度となく口説かれ、あまりにしつこいのでたまに食事くらいならば付き合うようになっていた。
彼は、湾岸戦争が終わると同時に海軍を退役してインストラクターとなった。
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