聖夜は眠れない―3

「あーもー、ぜんぜん大丈夫。すぐにでも」
一瞬楽園を見た陽一であったが、すぐに戻ってこれた。現実を噛み締めるために。
(でも、今日友達と飲みにいくとかいってたから。ほんとによかったの?
聞かれるまでもない愚問。こんなとこで飲んでるくらいならねぇ。むふふ。
「そりゃもういつでもいきますとも。他ならぬ美和ちゃんのためならば」
(ほんと!よかったぁ。えっと、うちわかる?)
「わかるわかる」
興奮しているのがまったく隠せてない。
(じゃ、なるべく早くきてね)
「わかった。じゃ、あとでね」
浮かれきっている陽一を、同席者たちはもののけに憑かれた目でみていた。
「ふっ、ではそういうわけでみなのしゅう。俺はあがらせてもらうほー、ほっほっほっ」幹事にいくぶん多目に会費を渡した陽一は、高飛車なお嬢様並に甲高い笑い声で居酒屋をあとにした。
その後ろ姿に、仲間からの熱い罵声が飛んだのはいうまでもなく、それを陽一が心地良く聞き流していたのもいうまでもなかった。
陽一が考えてたことは、やれるかもってことだけだった。


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