聖夜は眠れない―1

歓声とも嬌声ともつかない声が渦巻いていた
クリスマスの飲み屋は空席などみつからない状態で、人の熱気と酒の匂いとでむせかえりそうだった。
騒ぎに馴れているはずの店員も辛そうな顔をしている。それが客のせいであるのか、クリスマスに働いている我が身を苦やんでのことなのかまでは陽一の知るところではないが。
陽一にしても仲間と盛り上がっているのだが、悲しい盛り上がりだ。なぜなら彼女のいない奴等で声をかけあった集まりだからだ。一部やけになっているようでもある。
騒ぎ声にまぎれて陽一の携帯電話が鳴り出した。
「おぉ、ケータイなってんじゃん、三崎。女か、こんにゃろ」
陽一が気付く前に隣に座っていた原田がめざとく発見し、陽一にヘッドロックを極めながら言った。
「うるせっ!んなわけねぇだろ。女がいたらクリスマスにこんなことしてるかよ」
陽一も、気持ちはわからないでもなかった。なんの説明もなく呼び出して連れてきたからだ。こんな時に女から着信があろうものならば、首のひとつも絞めたくなろうというものだ。


次へ
TOP