財布の落とし主
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大村はそう独り言を呟くと、携帯電話を取り出し、かけ始めた。
「あ、所長? すんません。尾行してた相手、見失ってもたみたいですわ」
「…」
言葉の代わりに溜息が電話から聞こえてきた。大村が所長と呼んだ松永慶一(マツナガケイイチ)のものである。
松永の溜息は、『またやったのかお前は…』という言葉を代弁していた。
「所長、これからどうしましょう?」
「…こんなことだろうと思って、川本(カワモト)を行かせてある。ほんの五分ほど前に、川本から大村を駅で見失ったと連絡を受けたところだ。川本の方はまだ尾行を続けている。早く合流しろ」

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