闇家(52)
忍の耳に、遠くセミの鳴く声が聞こえる。
それはだんだんと大きくなって、緑豊かな田舎町の風景へと誘う…水田の端、小さな井戸端に忍はいた。
いつの間にかセミの声は静かになり、代わりに小さな女の子のすすり泣きが響きはじめた。
忍には、それが誰かはっきりと分かっていた。
あの時は、ただ見ていることしか出来なかった…。
「そうだ…しっかりするんだ…俺が守ってやらなきゃ…!」
忍の瞳は、正気を取り戻したように再び生気を帯びはじめていた。
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