闇家(49)


「志穂?…今何か言わなかったか?」
忍は一輝に近づいて聞いてみた。
「いや、俺は何も聞こえなかったけど。」
「変だな…何か言ったと思ったんだけど。」
忍は、何となく志穂の顔に手を伸ばした。
その時、突然志穂が忍の手を払った。パシッという乾いた音が、沈黙の中で微かに響いた。
[わたしに触れるな。]
それは志穂の声ではなかった。少し低く、気品のある声。そして冷たい声だった。
一輝を突き放すと、‘彼女’は部屋の奥へと後ずさる。
「志穂…?いや、違う…お前…一体誰なんだ!?」


次へ
TOP