PEACH CANDY
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家に帰って暫くしたら本当に彼からメールが来た。
"こんばんわ。初メールですね。何か照れます…。えっと、遅くなりましたけど、僕の名前は芦屋聖です。それから、齊藤さんの下の名前を聞くのを忘れていたのに気付きました…なので教えてもらえますか?って僕、馬鹿ですね…。"
私はすごく嬉しくなってすぐに返事を打ちました。だけどちょっと嘘を吐きました。
"メールありがと。名前、知ってたよ。制服の名札見たから。私の名前は齊藤さゆみ。さゆって呼んでね。"
名札を見たのは私じゃなくて中野君。私は中野君に名前を教えてもらわなかったら彼の名前を知らないことに気付かないままだった。
すぐに返事が来た。
"さゆなんて恥ずかしくて無理かもしれません…。あ、慣れたらで良いですか?それから僕のことは聖で良いんで。"
可愛くて食べちゃいたいとか思ってしまった。私の指は自然と早く動いて、即座に返信した。
"うん、じゃあ慣れたらで良いよ。私は聖君って呼ぶね。あ、それから映画の件なんだけど、いつにする?"
彼もまたすぐに返事を返してくれた。
"次の日曜日にしませんか?10時にコンビニの近くの駅集合で。"
楽しみ…すごく楽しみ。
年下なんて…って思ってたけど、すごく心がウキウキしてる。
その日になるのが待ち遠しくて、時計ばっか見てた。
バイトで中野君相手にデートの約束の話をして浮かれたりもしてた。中野君はそんな私を見ながら苦笑いして言った。
「何か複雑〜。何で俺じゃなくて飴男なの?しかも年下。お兄ちゃん寂しい…。」
すかさず私は返した。
「中野君…オヤジみたい。」
凍り付く。
「なっ…この娘は、何てこと言うんだ。オヤジ程年離れてねぇよ。ぶぁか。」
「ぷっ…今度は拗ねてるし。幼稚返りでしゅかぁ?」
「…くそ…さゆめ…なかなか言うようになったじゃないか。」
…
…すごく楽しみだった。
中野君、何だかんだ言って私をからってても、私が恋をしたことに対して、結構喜んでくれてるみたいだ。彼の言葉は異性としてではなく、本当に家族がヤキモチ焼くみたいな言葉だった。
「ほら、中野君、お客さん。」
「うっ…いっいらっしゃいませ。」
中野君には彼女が居た。
だから、冗談で言ってるって確信が持てた。もしも中野君に彼女が居なかったら、私は中野君のことを好きになっていたかもしれない。
─…約束の日。
その日はすごく良い天気で、私達がデートするために与えられた空に思えた。
私は待ち合わせ時間よりすこし早く駅に着いていた。遅刻なんてしたくなかったから。
そして暫く待っていると彼が来た。
「聖君、おはよ。」
『あ、はい。おはようございます。』
「ふっ…あはは。」
『えっ?』
「喋り方…、普通で良いよ。」
『あ…そんじゃあお言葉に甘えて…。』
「じゃあ、いこっか。はい。」
『え…?』
「手、繋ごうよ。」
私は、彼を目の前にすると何故だか大胆になれた。普通は手を繋ごうなんて恥ずかしくてなかなか切り出せないはずなのに、何故だろう…私はその逆だった。
彼と出会ってまだ1ヵ月ぐらいなのに、絶対彼を失うのは嫌だと思う。
「ねぇ、聖君。」
『はい。』
「聖君は、ピーチキャンディと私とどっちが好き?」
なんて恥ずかしい言葉も簡単に聞けてしまった。
戸惑う彼を見ながら私は、自分の振る舞いを、何か本能っぽい…と思った。
―continue―
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