PEACH CANDY

可愛い服を着て、手の凝った髪形をして、雑誌のモデルを真似た綺麗なメイクをして街中を歩く女の子達。

カリスマ美容師のいる美容院や、洋服屋、雑貨屋…お洒落な店が立ち並ぶこの素敵な街で私はバイトしてる。



お洒落な街とは何の関係も無いコンビニでだけど…。



そう、私はコンビニのレジで、そんな素敵な風景を見て憧れている平凡な女の子。普段は普通の大学生で、暇な時間にこうやってバイトしてる。

店の外の通りには、いちゃいちゃして手を繋いで歩いてるカップルも良く通る。私にはここ暫く彼氏がいなくて、幸せそうなカップルを見ていると羨ましくなる。

「コラッ、齊藤さん!!また外ばっか見て。ほら、お客さん!!」

「あ…すいませんっ。」

という風に、外ばかり見過ぎて店長の奥さんに怒られたりする。

「クスッ…」

慌てて謝る私を見て笑うバイト仲間の中野君。彼は私に一つ年上の20歳で、同じ大学に通っている。すごく優しい。お兄ちゃんみたいな存在だ。

「笑わないでよ…もぉ。」

「いやぁ、可愛いなぁと思って。あ、いらっしゃいませー!!」

なぁんだかなぁ…冗談でも可愛いとか言えちゃうとこはちょっとどうかと思うぞ?

とかなんとかやっているとまたお客さんがレジに来た。

「いらっしゃいませ。」

レジの前には高校生ぐらいの男の子が立っていた。レジに出してきたのは、袋入りのピーチキャンディーとイチゴ・オレで、男の子が買うにしては意外な組み合わせだったので少し顔がにやけてしまった。

男の子は少し照れていた。

『好きなんです…。』

「…え?」

『ピーチキャンディーとイチゴオレが好きなんです!!』

と言い残してその男の子は走り去った。

私は呆然として男の子が走り去っていく方向を見た。

「へ…変な子…。」

私がそう呟くと、

「ブクッ…ククク…!!」

中野君が笑いを堪えられずに吹き出した。

変な子というのは印象に残るもので、すっかり顔を記憶してしまった。
変な子だったけど、面白いからまた会いたいと思った。



それは6月半ば、梅雨時なのに珍しく綺麗に晴れた日だった…。



一週間が経った。

その日は雨が降った。朝は晴れていたのだが、午後から急に雲行きがあやしくなって雨が降り始めた。

4時前になると高校生の姿が見え始めた。
どうやら帰宅時らしい。

暫くすると、昨日の男の子が来た。傘を持っていないのか、ずぶ濡れだった。

男の子は透明のビニール傘を手に取った。そしてお菓子コーナーへ行って、ピーチキャンディーを手に取り、レジへ持って来た。

「いらっしゃいませ。傘はそのままお使いになられますか?」

『…はい。』

「…ピーチキャンディー、美味しい?」

私はそんなことを口走っていた。

『え…あ、はい!!』

てか答えるんだ…。

「へぇ。私まだそれ食べたことないんだ。」

そう言って袋を渡すと、男の子は袋からピーチキャンディーの袋を取り出して、封を切って三つ私の手にのせてくれた。

『どうぞ。』

「あ、ありがとう…。」

男の子はニカッと笑って去って行った。



何だか私の鼓動はすごく速くなった。


―continue―
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