ダイブ―5

 フェンスに手をかけると、ぎしぎしときしむ音が気になった。
 でも、これを越えなくては、二人と同じところにはいけない。
 二人ともよく乗り越えたものだ。
 フェンスを乗り越えるだけでバランスを崩して落ちそうになった。そのまま落ちてしまえばよかったのかもしれないが、それでは自殺にはならない。
 遺書は用意していない。理由を知られれば、家族が誹謗をうけるのは明らかだから。
 へりに立って、靴を脱いだ。なんで脱ぐのかわからないが、二人も脱いでいたから、私もそれに習う。
 一ヶ月では、跡が完全に消えないみたいで、屋上からのぞいてもなんとなくわかる。
 今から私もあそこに落ちるんだ。
 私の好きだった沙耶と同じように。
 もう、耐えられないから。私さえ普通だったら、二人が死ぬことはなかったんだから。私が死ぬべきだったんだ。
 もう、遅すぎる。
 でも、このまま背負っていくことなんてできない。
 だから、私も死ぬ。
 沙耶もこんな夜に死んだんだと思うと、これから死ぬのも怖くなくなる。
 沙耶はなにも返事をくれなかったけど、そんなことはっきりしている。
 私と付き合うなんて無理なんだ。
 でも、私は沙耶のところへいくんだ。
 私は力を抜いて前に倒れ込んだ。
 冷めた空気が顔にあたるだけで、私を止めるものはなにもない。そのまま地面に叩きつけられて私は死ぬ。
 恐怖が戻ってきた時、目の前に近づく地面を見て、私の意識は遠のいていった。



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