ダイブ―1

 学校の屋上に続く階段は、今はもう封鎖されている。
 立て続けに起きた飛び降り自殺のせいだ。
 それにより、私は大切な人を二人失った。私の好きだった人と、私のことを好きだった人。過去系で語らなければならないことが私にはとても辛い。
 封鎖されているとはいっても、ちゃちな柵が置いてあるだけだから、その気になれば乗り越えることは簡単だ。ただ、屋上に出るためのドアには鍵がかけられている。
 これまでは、そのせいで先に進めなかったが、今の私には合い鍵がある。簡単な南京錠だったから、手に入れるのも容易だった。
 南京錠を外し、ノブにからみつくチェーンをひきはがす。私にはそれも力のいる作業だった。
 体をドアに預けるようにして押すと、風が手伝って勢いよく開いた。
 壁に叩きつけられたドアが豪快な音をたてたが、それを聞いてかけつけてくるような人はいないはずだ。
 だって、夜中の学校に忍び込んだんだから。
 立ち入り禁止になっているはずなのに、二人が飛び降りたと思われる場所には、まだ新しい花束が供えてある。先生だろうか。
 二人が死んでから、すでに一月近くたった。夏の暑さはもうなくなった。夜はもう肌寒さも感じる。
 でも、私は待った。
 あの夜と同じ月夜になるのを。
 二人の後を追うのには、今日ほど似合いの日はないはずだ。
 夜空にまたたくのは無数の星のみ。かけらもみられない、見事な新月の夜だった。


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