財布の落とし主
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「あの、財布落としましたよ」
駅の改札口で山辺法子(ヤマベノリコ)はそう声をかけたのだが、落とし主は一向に気付く様子もなく改札口を出ると、足早に駅の出口へと歩いていく。
落とし主の男は二十代後半といったところだろうか。
(ま、仕方ない…。見て見ぬふりも何だし…何より暇だし!)
法子はそう考えると、財布を拾い上げて落とし主の後を追った。
法子が暇だったのは理由がある。
法子は先月に大学を受験したものの、大学の方から誘いがなかったため(世間一般に言う不合格である)、今は誇り高き(?)浪人の身分であった。

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