無題
ふと、彼は窓の外に視線を移した。
次第に暗がりを見せ始めた空の下、仕事、いや一日を終えた二足歩行の働きアリたちが、列をなして家路へと急ぐ。
この列をなす者すべてが、個々の意思を持ち合わせているなどとは想像すら出来ない。
同じ速度で、同じ速度で、同じ道筋をたどり、鉄の箱に詰められ、巣に戻る。
そして日が上れば、同じ一日を繰り返し、それに何の疑問も抱かない。
おそらく本能なのだろう、人間の。
ドアをノックする音で彼は机の上に視線を戻した。
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