果実

 ふと、舞い降りた一羽の鳥が、一つの果実を啄ばんだ。
 水気とともに広がる甘味、そして微かな酸味。
 鳥は初めて味わった。この果実の美味しさを。
 いつも食べる果実など、比べ物にならない程の美味しさを。
 一つの果実を食べ終えて、まだ鳥の腹は満たされない。
 鳥は今食べた果実と同じ果実を探し始めた。
 いつも食べる果実などには眼もくれず。
 高かった陽は空を去り、闇とともに月が空に居座った。
 まだ果実は見当たらない。鳥は必死に探し続けた。
 月が去り、また陽が空に昇っても、まだ果実が見つからない。
 鳥の飢えは増すばかり。それでも鳥はいつも食べる果実を拒み続けた。
 月と陽が互いに空を行く内に、ついに鳥は朽ち果てた。
 一つの果実を知ったばかりに。

 日が経ち、朽ちた鳥の骸から、一つの双葉が顔を見せた。
 双葉はやがて樹となって、鳥を惑わせた果実を実らせる。
 そう…一つだけ実らせる。

 また一羽、鳥が果実を啄ばみ始めた…



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