闇家(1)
「ね〜忍、やっぱり帰ろうよぉ」
森野志穂は幼なじみの桜井忍の腕にしがみついたまま、情けない声を出した。
「なんだよ、ここまで来たんだから中に入ってみようぜ」
志穂とは対照的に、忍は勇んで答えた。
土曜の午後、二人は通学路の途中にある一軒家の玄関先に立っていた。住み手がおらず、今では廃墟と化した古家だったが、塀囲いや敷地の広さ・元は美しかったのだろうと思わせるオブジェの数々が昔の優雅な暮らしを物語っていた。その上洋館とくれば、廃れきったその場所は、様々な噂の種だった。
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