ハロウィンの日に
部活帰りにいつものように街中を歩いてると、目の前にフシギな子がいた。
かぼちゃを頭に被った、背格好から言って小学生中学年程度だと思う、その子に。
「とりっく おあ とりーと」
「へ?」
思わず間抜けな声をあげてしまった。ああ、恥ずかしい。
「とりっく おあ とりーと」
その子はそんなあたしの反応を気にする事もなく、そう繰り返す。
どこかで聞いたような……
「とりっく おあ とりーと」
「そっか、今日はハロウィンか」
少し考えて気が付く。英語の時間だ。ハロウィンとかなんとかって先生が言ってた。
なんか外国のお祭りらしいけど、詳しくは知らない。あたしは日本人だし。
「とりっく おあ とりーと」
ああ、もう、うっとおしいな……『いたずらかお菓子』か、だっけか。
「ゴメン、お菓子持ってないんだ」
そう言ってその子の脇を通り家路につ……こうとしたら、トテトテと、そう、トテトテと小走りに、またあたしの前にくる。
「とりっく おあ とりーと」
タメ息が出る。
無視して通り過ぎようかと思ったけど、なんとなくやめた。今日はこれから暇だし、家に帰っても誰もいない。
それなら、少しの時間、この遊びに付き合ってあげよう。
「キミ、名前は?」
その子は小首を傾げ、黙る。
「名前、言えない?」
すると、コクン、と首を縦に振る。
ハロウィンの決まりか何かなのかな?
「お菓子を買ってあげようと思ったんだけど……」
かぼちゃのかぶりもの……『じゃっくおーらんたん』だっけ。
「こんなところで英語の授業が役に立つとはね」
その子はまた小首を傾げる。
「『じゃっくおーらんたん』くん」
その子はビクッと身体を震わせる。
「ど、どうかした?大丈夫?」
あたしがカボチャの中を覗きこむと、綺麗な目がこちらを覗いていた。
「だいじょうぶです」
あたしはびっくりした。いきなり普通に喋ったからだ。
「なんだ、普通に喋っていいんじゃない。じゃあ、名前、教えて?」
目を見ながらそう言う。
「『じゃっくおーらんたん』です」
「そこは通すのね……まあ、いいわ。じゃあ、行きましょう」
その子の手をとって、あたしは近くのケーキ屋に寄る事にした。
つづく
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